MOTOHIRO OHTA .NET GALLERY」


 太田元弘さんは1962年、愛知県岡崎市生まれ。1985年、名古屋芸大絵画科洋画コ ースを卒業。1986年、 同大美術学部絵画科版画コース研究科修了。 愛知県岡崎市を拠点に絵画を描き、愛知県一宮市の織部亭などで個展を重ねてい る。自然、そして自分と対話する中で生まれる清澄な世界は、静かに生気が広がる ような色彩と柔らかな光景が特徴である。 ケヤキなど公園の樹木を描いた後、2012年ごろからは、長野県飯田市にある天竜 峡のリンゴ園「天竜峡農園」に通い続けている。
 2019年、2021年の個展で見せた絵画には、リンゴ園をモチーフにさまざまなバリ エーションがあった。小さな果実、花のクローズアップ、花に近づく蜂から、リン ゴ園を包む空間、あるいは天竜峡全体まで、 多様な作品が発表された。 既にその頃から、空に広がる雲の神秘的な姿や、空気遠近法によって霞んだ遠方 の風景を捉えた幻想的な空間、抽象化した樹影の背景など、単なる具象絵画を超え て描いたと思える作品があった。 ぼかしや、繊細なグラデーション、単純化や対象の取捨選択によって、現実の風 景と抽象性、空想性が組み合わされ、不思議なイメージがつくられていた。
 今回の個展ではこうした流れをさらに展開させ、「波動」がテーマとして前面化 している。 ギャラリーの空間に、向かい合うように、横長の大作が展示されていて、目を見 張った。1つは長野県・南信の極楽峠から見た雲海、遠方の山並み、もう1つは千葉 県の房総半島・九十九里浜を描いている。 これらは、山や海の風景であるとともに、雲海や山並み、あるいは砂浜の波がエ ネルギーを観者の方に伝える効果を生んでいる。絵画のイメージが、風景であると 同時にパルスになっているのである。 現れては漂い、消えていく雲や、寄せては返す波など、波動のイメージはとても 心地よく、ギャラリー空間に響いてくる。会場を見渡すと、山並みの風景でありなえ がら、波動を抽象化するように描いている作品もあった。より主題を強調したもの と言えるだろう。
 仏教では、万物の働き、因縁によって、全てが存在する。お互いの支え合いによ って全ては現れてくる。全ては、「もの」でなく、「こと」である。自分自身も自 立して存在するものではない。現象である。 世の中に永久不変のものはなく、漂う雲のように生まれ、流れ、消え去る。これ が無常、無我、空である。仏教では、常に変化をしていくエネルギーが宇宙であ り、それは波動のようなものである。 また、現代物理学でも、光や電気など、さまざまな物理現象が粒子のような性質 と波動のような性質を併せ持つ二重性を持つことが知られている。宇宙はほとんど が素粒子からできていて、それらは粒子のように、あるいは波のように振る舞う性 質を持っている。 太田さんの作品を見て、思ったのはそんなことである。柔らかな波動を感じ、と 自分の中の大切な部分、つまり、こころが自分を超えて宇宙とつながって広が り、優しく、慈しみの気持ちになっていくような感覚である。

井上 昇治
「OutermostNAGOYA」
(c)Motohiro Ohta

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